「え〜〜と。『好きです。』」

ぴく。

「『愛してる。』」

どっきーーーーん


届かない言葉


「なななな何言ってるんすか猿野くん?!」
「げ!!聞いてたのかよ子津っちゅ!」

そろそろ部活がはじまろうかという放課後。
どうやら今日は一足先に来ていたらしい、猿野天国の姿を部室で最初に見つけたのは子津だった。

そこで、冒頭のセリフが耳に入ったのだ。

聞いた子津はそれはもうびっくりした。
普段から密かに想いを寄せていた相手の声で、告白のセリフ。
自分になんて、自惚れた事を思ったわけではない、ただ…。


「あの、何してたんすか?」
口から出てきたのは、聞きたいことと少しずれた質問。
ホントは誰に言うつもりなのかと。

聞きたかったのだけれど。


天国は、子津の真意に気づくこともなく返答した。

「ん?ああ実はな。
 ちょっとマジ風?!ドキドキ明美告白タイムの練習してたんだよな。
 こう、キモさのなかで一瞬ぐっとくる感じのセリフが出したいんだけどなかなか決められなくってさ。」
ガリガリと苛立つように髪をかきながら「ネタ帳」と表記されたノートを手に難しい顔をした。

(…なんだ。)
子津はふっと安堵した。
天国は今のセリフを、誰かに言うわけではないのだ。
いや、言うつもりなのだが心を込めるわけではなくて。

ただ…。

「あ!そだ。子津はさ、ぐっとくるこれ!!っつーセリフあるか?」

「え?」
急に話を降られ、子津は天国のほうを向いた。
その眼は期待に満ちていて。

けれどその瞳は、少し子津に寂しい想いを与えた。


「そうっすね…。」

悩みながらも天国の問いに答えようと、子津は考えた。
もし、自分なら。
どんな言葉に心を動かされる?

もし、彼が言ってくれるなら…。

子津はふと、天国のほうを見る。


「な?何がいいと思う?」



(そっか。)


「…僕はどんなセリフでもいいっすよ。
 心を込めて言ってくれるなって感じたら、やっぱり…。」

そこまで言った子津の首筋に、突然天国のしなやかな腕が絡みついてきた。

「え…。」


子津が気づくと、天国の顔が至近距離にあって。
子津の眼をまっすぐに見つめる澄んだ瞳があった。

その姿勢のまま、天国は微かに呟いた。

「好き…。」



#############

「って、こんな感じ…あらら。」

天国は練習台に(勝手に)させてもらった子津が倒れるのを見て、ちょっとやりすぎたかと反省した。


「子津にはちっとばかし刺激が強かったか?」

そう思いながら、1年の最初の犠牲者を天国は見遣った。


その時、背後のドアが開く音が響いた。

「…今度は子津?」

そこにいたのは、チーム1の人畜無害と言われる男、司馬葵。
だが、いつもの照れたような、はにかむような穏やかな表情は今の司馬には全く見られなかった。


「前は…虎鉄先輩だったよね。
 その前は猪里先輩…。その前は蛇神先輩だったね。2、3年が終われば次は1年ってわけ?」
氷のように冷たい声色。

その声には侮蔑と、怒りと…嫉妬がまぎれていた。


天国が冗談交じりに部員たちに告白まがいの言葉をかけはじめたのは、つい最近のことだった。
最初は、守備練習で一緒になる事の多い獅子川から。
そして、主将である牛尾に、鹿目に、蛇神に、一宮に、三象に、いたるとこでそんなことを繰り返して。
ただ、「明美の練習」という理由をつけていたので、周りから見て特に天国のすることにいつもと違うと感じることはなかった。

だが、告白する瞬間。
吸い込まれるように真剣な瞳を、天国は見せる。

その瞳に、殆どの者たちが例外なく捕らえられていたのだ。
 

その様子を、司馬はずっと眺めていた。

サングラス越しに、鋭い眼差しで。



「お前が信じてくれるように練習してるだけだろ?」
天国はゆっくりと司馬の方を向いた。

その眼は、司馬をまっすぐに見ていた。
それは、先程子津が見た瞳より、ずっと強い想いを映していた。


天国が告白のセリフをばら撒くようになる前日。
天国は司馬に伝えた。

「好き」だと。



だが、司馬はこう答えた。


「冗談でしょ?信じられないよ?」




#######

信じない。信じられないよ。

だって君は、いつも冗談ばかり言って。

他の人にもいっぱい「好き」だって言うじゃないか。

僕だけをそんな眼で見てくれるなんて信じられない。

そう言ったら、次の日から君は他の人たちに「好き」って言うようになった。

ほら、やっぱり信じられないよ。

でも嫌だ。

君が他の人の所に行くなんて。






そんな風に司馬が想いをめぐらせていると。
天国は、微かに微笑んだ。

「好きだよ?司馬。」


ふと。

どこかの扉が閉まる音がした。



                       end


あけましておめでとうございます!
新年早々薄暗い話ですみません。
4ヵ月半もお待たせしてもっとすみません。
なんだかわけの分からない話になりました。最初はギャグになってたんですよ〜〜。ホントに。
書いてるうちにシリアスになってました。(苦笑)
遥さま、こんな文ですみません。

天国は回りの人間に「好き」という事で司馬君を追い詰めてるんですね。
天国は司馬君の迷いを知ってます。
司馬君が信じられないのが本当は自分で、自信がないから天国の言葉を信じられない。
それを理由に、司馬君自身の「天国が好き」という気持ちが表に出てこない。
出す事が出来ないでいる。だからそれを引っ張り出す。
そんな感じですか。って別に説明いらないかも…。

そんなこんなで、今年もよろしくお願いします!
今年もミスフル大好きです!!!


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